歯が溶ける現代の生活習慣病 若い人にも起こる酸蝕症ってなに?

2023年05月25日

酸蝕症とは虫歯ではないのに、飲食物の酸などによって溶けた歯の状態のことを言います。

症状としては、歯の表面にへこみができ始める、歯の光沢が無くなって、変色したように見える、歯がしみる、歯の先端が透けて見える、歯の角が丸くなってくる…などです。

心当たりがある方、酸蝕症かもしれません。

1.酸蝕症とは

虫歯も酸蝕症も酸によって歯が脱灰される(溶かされる)点では同じなのですが、脱灰される酸の由来が違います。

虫歯の原因になる酸は、歯垢(プラーク)の元である細菌が糖から作り出します。

pHは低くても4.3程度で、脱灰は10~30分かけて比較的ゆっくり進むと言われています。

主にエナメル質の表面の下で起きます(表層下脱灰)

一方、酸蝕では細菌は介在しません。飲食物に含まれる酸が歯を溶かします。

pHは2.5~5.0程度で、飲食物によって大きく異なります。飲食物中の酸が歯に接する時間は数秒から1分以内の短時間で、飲食する度に歯に酸が接触することになります。脱灰はエナメル質の表面で起こります。

このため、歯ブラシをしっかりしていて、虫歯になったことがない方でも、酸性飲料を長い時間チビチビ飲んでいると、酸蝕症のリスクは上がります。

虫歯はなりやすいという場所がありますが、酸蝕は、摂取した飲料が口の中で広がるため、複数の歯の表面でおこるのも特徴です。

酸によって歯の表面のエナメル質が溶けると、次の層である象牙質が出てきます。象牙質はエナメル質より歯が柔らかくしみやすい場所になります。そこに、お口のかむ力も加わって、どんどんすり減っていき、しみるようになってきたりするのです。

□歯が平らになってきた

□前歯の先が茶色っぽくなってきた

□歯ぎしりをする

□水がしみる

このような症状にお心当たりがあれば、ご相談ください。

 

2.酸蝕症の原因

酸蝕症は、昔、ガラス工場、メッキ工場、バッテリー工場で酸性のガスを常に吸っている環境にいる人がなるものでしたが、最近は、歯が長時間、飲食物の酸にさらされることによって起こるようになりました。

歯のエナメル質はpH5.5以下になると溶けやすくなります。

日常よく飲む飲料のpHはどのくらいだと思いますか?

酸性度が高いのは、酢、炭酸飲料、かんきつ類のドリンクです。

体にいいとされているものに酸性のものが多いので、健康志向の方ほどなりやすいかもしれません。

毎日健康のために黒酢を飲む習慣があるという方、要注意です。酢ドリンクはpH3前後の酸性の飲料です。

炭酸飲料は炭「酸」です。酸の中でも炭酸ジュースといわれる商品、コ〇・コーラなどはpH2.5!炭酸水はpH4.2~5.2の範囲の商品が多いです。炭酸以外に何も入っていなければ特に問題は起きにくいのですが、酸味料(リン酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、ビタミンC)が入ると酸性に傾きます。

フレーバー付きの炭酸は通常の炭酸水よりやや低めpH3.5前後です。

かんきつ類のドリンクの代表と言えばオレンジジュースですが、ほとんどpH 4以下になります。

スポーツドリンクはpH 3.5です。酸性ですね。スポーツの最中に何度も摂取するものになりますので、長時間にわたって口の中が酸性になりやすいです。さらに砂糖も加わります。虫歯のリスクも同時に高くなります。要注意の飲料なのです。

他のものはどうでしょうか。

体にいいと言われる野菜ジュースやスムージーですが、pH4前後~4.5でこれも酸性であることがわかります。

エナジードリンクも酸性で、pH3.5前後です。

お酒に関しては、ワイン、チューハイなどpH3.2~3.5となります。ワインは酒石酸が多く含まれているので、酸性になると考えられます。

これからの季節おいしくなるビールもpH4前後です。

チビチビ、だらだら飲むと、歯は溶けやすくなります。

お酒はチビチビ飲むことも多いので、気を付けなくてはいけません。

お茶はpH6で、中性に近くなります。

 

では、食べ物はどうでしょうか?

酸性の食べ物と言えばレモン、梅干し。こちらはpH2です。

ヨーグルトも酸っぱい感じ・・・pH4

甘いバナナはpH5、弱酸性です。

味噌汁はpH5.5~6、チーズはpH7でほぼ中性です。

 

他の原因として、胃や食道の病気や胃酸が逆流する状態が続くと、お口の中が酸性になるため、酸蝕症の危険性が高まります。

様々な要因で酸蝕症はおこるため、最近では、「成人の4人に1人」が酸蝕症という報告もあります。

ご自身で習慣にしている飲食物が酸性かどうか、意識してみてください。

※参考:日本補綴学会誌

https://www.hotetsu.com/s/doc/irai2015_2_15.pdf

3.酸蝕症の治療法

歯がしみたり、痛んだりしなければ、経過を見ていきますが、歯に少ししみる症状がある場合は、症状を和らげる知覚過敏抑制剤を塗ります。自宅では知覚過敏用の歯磨き剤を使用してもらいます。

冷たい水がしみて痛む、噛むと痛い、歯が減って欠けてきたなど、症状が進行した場合には、詰め物で治療します。小さい範囲はコンポジットレジンという白い詰め物を使って1回で治療できますが、範囲が大きい場合は、型を取って詰め物を作る必要がでてきますので2回かかります。症状と減っている範囲によって治療法は変わりますので、ご相談ください。

 

4.酸蝕症を予防するためには

酸蝕症の原因となる酸性度の高いものを過剰に取らないことを心がけましょう。

長時間、高頻度に酸性の飲食物を摂取すると酸蝕症になりやすくなります。

といっても、体にいいとされるものも多いので、酸性度が高いものをすべて避けるわけにはいきません。

普段から酸性度の高い飲食物が多い場合、他のものに置き換えできないか検討してください。そして、以下のことを心がけましょう。

・長時間、お口の中に酸性のものをためないようにする

・酸性度の高いものを摂取したらうがいをする

・酸性度の高いものをしょっちゅう口にしないようにする

・食事中はよく噛んで唾液を出すように心がける(唾液は酸の中和作用があります)

・唾液分泌が少なくなる寝る前は酸性度の高いものを控える

※寝ている間は特に唾液の分泌が少なるなるため、お口の中のpHが中性に戻りにくくなります。唾液量が少ない方、口が乾きやすい方も唾液の中和作用が十分に働かなくなるため、酸蝕症に気を付けてください。

 

酸蝕症は、生活習慣によって引き起こされます。

生活習慣を見直すことで歯の健康を守りましょう。

酸蝕症かも・・・という心配な状態がでたら、早めに歯医者さんでみてもらいましょう。

定期的に歯医者さんを受診して、歯の健康状態をチェックしてもらうのも大切です。